或る人に宛てた私信より

大體、生命をかけるつてなんなのか。命を削らない瞬間が、いつあるといふのか。どんなに下らないと思へる瞬間も、私たちは死に向つて生きてゐて、だから、心を込めてゐるとか、情熱的とかいふのは、氣分の問題でしかない。さういつた瞬間瞬間に優劣をつけるとしたら、生の否定だらうといふ。綺麗なところしか持つていかなくて、耽美的なといふのは、そんな綺麗事ばつかりだから、眼に觸れてもくどいものばつかりだ。