仕事への痛みを、ああ、あの人も苦しみながら働いてゐるんだといふ事でしか和らげる事が出來ない。それすらも出來ない。何も出來ない。何も逃げられない……逃げられてゐない。現實逃避ですらない。何も無い。私のやる事は總て無駄だ。無駄だ……。逃げるべき何が在るだらう? 考へてもみればそれ程厭な事でも苦しみでもない氣がするが、私は時々逃出したくなる。時々でもなく、全部。全部。いつも。私は義務が嫌ひだ。何もかも嫌ひだ……好きといふ煌めきはいつか去つて……それですら嫌氣の差す、落著きの無いものになる。この世に固定的なものなど何も無いのか。私は書いてゐる。下らない事を。又日記を開く……今日あつた事を、書くために……あの人にお伺ひを立てたい、と書くだらう、自分でも厭な事、厭な奴だと思ひながらも。