用無しの傘

使はれなくなつたのはいつか
噓吐きで
汚くて
用を足せなくなり
骨が折れた
雨に濡れたあなたを守れなくなつた

私は用無しの傘
かすかに觸れるあなたの手の甲
隣の別の傘を選び出す
私は每朝彼女あなたを見てゐる

使はなくなつた事さへ忘れて
あなたは私を
ずつと立てかけてゐる
意味無く棒立ち

何のために存在してゐるのか
自我のある私は
自分の死さへ分らず
用ゐられなくなつた私は
ここにはゐるが
死んでゐる

私のゐる意味は無く
彼女にとつてさへ無い

忘れられてゐる
無い事と同じ事

ずつと私は立つてゐる
無用の傘

捨てられるその日まで
私は無いのと同じ
無用な背景
ただ 描かれるためだけの背景